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甲南多士済々
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粉川 妙 さん (大文H10)

スローフードに魅せられて 

社会学は社会に還元できているのだろうか?
文化人類学は人類のために役立っているか?
・・・
と、自分に問いかけることがあります。
平成10年、文学部社会学科を卒業した私は、イタリアでライターをするかたわら、旅のコーディネートの仕事をしています。

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<著者の住むスポレート界隈の人、自然、歴史>


食べるのが好きで「それを仕事にできれば」と思い立ち2005年に渡伊。それまで7年勤めた営業職からの180度の転向でした。
かくして食のライターを目指して、中部イタリアのマルケ州にあるスローフード協会認定の料理学校『イタル・クック』を修了し、そのプログラムの一環として1年間、現地でコックを経験しました。スローフードに深く触れたのは、その頃です。


ただの食いしん坊から考える食いしん坊へ
アドリア海の女王ヴェネツィア。名物料理の一つに、春と秋にしか口にできない、希少でおいしいカニ料理があります。
モレーケ(地中海ミドリガニ)のフライです。脱皮したての生きたモレーケを溶いた鶏卵の中に放り込み、鶏卵を吸わせて、油で揚げます。(残酷ですね!)
ソフトシェルなので皮ごと食べられます。外はサクサク、中身はふんわり。カニのうま味と卵の優しい味が楽しめます。ヴェネト地方の白ワインのソアヴェと食べると、最高!!
しかし、漁師の後継者不足と海の汚染で、モレーケは消滅の危機に瀕しています。漁には、専門的な技術が必要で、一朝一夕で身につくものではありません。ローマ時代から続くモレーケ漁を、我々の世代で終わらせて良いのでしょうか。


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<ヴェネツィアの春と秋の名物料理"モレーケ"のフライ>

手間のかかるチーズやサラミ、肉付きは悪いけど肉質は最高の牛やブタ、希少品種の果実など、イタリア各地のご当地グルメは、市場競争と環境汚染、造り手の欠如で、消滅しかけています。
それは良くない!継続できる環境を整えよう!持続的に生産できるよう、販売を手伝おう、というのが、スローフードの考えです。
滅びつつあるプロダクトはスローフード協会によって、『プレシディオ(食のとりで)』品としてPRし、保護を呼びかけています。単に舌で味わって終わりではありません。頭も使い永続的に生産していかなければ、いつかは終焉を迎えます。


魅力あふれる地方であり続ける大切さ
イタリアは、国家統一してまだ150年。ローマ帝国からの歴史は相当古いですが、近代国家の歩みは意外にも短いのです。20世紀に入り、ファシズム期の二十年間に、諸地域の食地図が完成し、特産品の最初の目録が作られて、書物の刊行や宣伝がなされました。国を挙げての地域活性の鍵は『グルメ』だったのです。1931年にイタリア旅行協会が刊行した『イタリア美食案内』は、ご当地グルメが満載されたマップと、食品や地方料理の詳細な説明が掲載されています。いかに地方を魅力的に差別化し、農業を推進させていくか、という術を心得ていたのです。
また1960年代のアグリツーリズモ(農家での滞在)の誕生、1980年代のスローフード協会の発足と世界的な広がり等など、地方の奮闘は目覚しいものがあります。現在、47件もの世界遺産を有するイタリアですが、それに『魅力的な滞在』と『グルメ』を加えて、さらに魅力的な旅を提案しています。


こういったイタリアの地方活性術を日本も取り入れてほしい。日本は、豊かな自然、神社仏閣などの歴史建造物、ユニークな町並み、おいしい食事、そして礼儀正しく気持ちの良い国民性を持つ国で、その素地は十分あるのです。
また、グルメや観光に限らず、地場産業の発展やエネルギーの地産地消など、今回の東北沖地震で見るように、エネルギー問題を含めた地方自治体が主役の街づくりは、急務だと言えるでしょう。


縁あって、イタリアと関わりを持っています。大学時代に養った社会学と文化人類学の視点で、イタリアのスローフードや文化構造を見守り、そして分析し、日本に紹介し続けたいと思います。大好きな二国の橋渡しができれば、こんなにうれしいことはありません。

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<オリーブ畑で草を食む羊たち スポレート郊外>

 

【プロフィール】
粉川妙(こかわたえ) 中部イタリア・スポレート市在住
食のライター、ソムリエ、旅アドバイザー、日伊文化交流会ICIGO(一期)主宰
著書は『スロー風土の食卓から』(扶桑社)。
市町村や民間からイタリア農業視察の依頼も多く、コーディネートも受けています。
ブログ『butakoの2年間の休暇』http://butako170.exblog.jp 
サイト『ウンブリアの食卓から』http://slowfood1.web.fc2.com
9月発売予定『イタリア古寺巡礼フィレンツェ→アッシジ』(新潮社)にて食のパート執筆しています!

 



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