♯ フル-トとの出会いから、お聞かせください
♭ 遡れば中学生の時です。楽器屋さんでフル-トを見て、美しい!これやってみたい!と思ったんですね。演奏を聴いてではなく、ただ単純にフル-トという楽器のその姿に魅せられたんです。甲南大学に入学すると迷わず交響楽団に入りました。
♯ 甲南大学での思い出は
♭ 4年間勉強せずに交響楽団に明け暮れました。直情径行な性格で今思い返すと恥ずかしいことばかりです。 高校野球のインタビューで立派な答えをする若者を見ていると、あの頃の自分にあんな立派な返答ができたかどうか。
♯ ムラマツに就職されたのは、フル-トに関わるお仕事に就きたいと思われてでしょうか
♭ いえいえ、それがまったく違うんです。甲南を卒業すると、普通の企業に就職したんです。あの楽しい甲南生活から一変、社会の厳しさを知って戸惑いました。甘かった。世間知らずでした。このままでいいのか。自分とはいったい何者か?自分の実存とはいったい何なのか、自分に何ができるだろうか。悩み、自問しました。その時、学生時代に一度フル-トを修理に出しに所沢まで出向いたことを思い出したんです。あの工房の空気、熱心に緻密な作業をする職人さん達。できればあんなところで働きたい。そして思いきってムラマツに電話しました。今のようにインタ-ネットで情報を知ることはできませんでしたから、自分で状況を聞くしかありません。「今すぐでなければ、採用を考えます。」という返事が返ってきました。入社してみると案外適正があったみたいです。
♯ フル-ト作りのご苦労は
♭ 品質を工程ごとに織り込んでいきます。検査工程はありません。ですから、後工程がお客様です。場所によっては1000分の1の精度も必要です。もっと雑なところもありますが、いわゆる「すり合わせ」に繊細な神経が必要になります。フルートは三つに分かれていますが、演奏時に組み立てます。その時、硬くなく緩くなくスム-ズに組み立てられる。これ難しいんです。楽器は工芸品や高級時計の作り方に似ています。また、工芸品でありながら生産性も要求される。器用さは求められますが、大事なのは器用さよりも、考える力だと思うんです。でないと、新しい課題を要求された時に応用ができない。問題点を抽出し、解決するには演繹的思考力が必要です。仮説、検証の連続です。(東京大学 藤本隆宏先生参照 iTuneで無料DL可能)
聞き手・白須日尚子(大文54)