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<天文学の古書のコレクション>

kumoi-1.jpg 兵庫大仏で有名な能福寺の住職雲井世雄さんは、戦争で供出された日本三大大仏の一つ兵庫大仏を再建したことでも知られているが、他にもたくさんの古書、特に「天文学」の本を約千冊も所蔵されていることでも有名。この蔵書を見た宇宙物理学者の須佐元准教授(甲南大学理工学部)は、16世紀の「コペルニクスの地動説」初版本から、20世紀のNASAアポロ計画の報告書まで、専門性と希少価値の高い文献が数多く揃っていることに大変驚かれていた。

<初代荒勝学長とともに過ごした大学生時代>

将来は寺の住職になると決まっていた雲井さん、「寺を継ぐのは決まっているのだから、学生時代だけは好きな勉強をさせてやる」と父親から言われ、大学では基礎物理学を専攻。当時、就職を念頭に大学に進学した者は皆、応用物理学を専攻する中、基礎物理学を専攻した者は一人だった。
kumoi-3.jpg 雲井さんは、甲南で巡り合った荒勝文策初代学長を次の様に振り返る。
「先生は自由な発想をされる方でした。私が学術祭(文化祭)に湯川秀樹先生を呼んで甲南大学で講演会をしたいとお願いすると、『では紹介状を書こう』と言って私に紹介状を書いて下さり、それを頼りに京都大学までお会いしに行ったことがあります。」
原子物理学の分野では荒勝学長は湯川博士の恩師にあたり、講演会は実現し、当時の西館51番教室で1000人が湯川博士の講演を聴いた。

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[左 荒勝文策学長 中央 湯川秀樹教授 右 雲井世雄]

他にもよく覚えているエピソードがある。
戦後、GHQに戦前製作された理化学研究所の仁科芳雄博士のサイクロトンを壊されてしまったが、昭和27年(1952年)、荒勝先生は以前赴任していた台北帝大で自らが設計製作した原子核破壊装置(コッククロフト・ウォルトン型)を移設し、2年をかけて甲南大学に設置された。雲井さんは当時大学2年生。とても感激し実験したことを覚えている。

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<基礎物理学から一生の趣味「天文学」へ>

ではなぜ、基礎物理学から天文学の分野に・・・・?
「大学2年の頃、叔父に連れられ荒木俊馬先生宅を訪問したことがきっかけ。そこで天文学に出会いました」荒木先生は世界的に有名な「天文宇宙物理学総論」(全10巻)で知られる天文学の当時我が国の最高権威者だった。

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[「コレクションではなく、ただ興味があって買っていったらこうなった」と雲井さん。コンコルドの置物はコンコルド機内限定販売のコニャック(未開封)。今では手に入らない珍品。]

今も学生時代と変わらずに天文学や宇宙への興味を捨てず、半世紀にわたり思いを巡らせている。古書店の人が言うには、古典天文学の学術書を買う一般人は雲井さんくらいという研究熱心さ。天文学者と議論するのが好きなのだという。ラテン語、ドイツ語、ポーランド語、オランダ語など様々な辞書を片手にコペルニクスや、ガリレオなどのルネッサンス期天文学の古書と対話している。
大学時代に出会った学問を今なお続け、愛している雲井さん。これからもその学問への深い愛は変わることなく続いていくことだろう。

≪プロフィール≫
  • H15~18年:兵庫県仏教会(2,700ヶ寺)の会長を務める
  • 同年:全日本仏教会理事を務める
  • H23年4月21日:天台宗最高位の大僧正を授与される

<取材> 広報部IT委員  樋口尚子 ・ 西川忠亨

雲井 世雄氏
平成25年9月14日永眠されました。
ご冥福をお祈り致します。

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