2011年9月アーカイブ

新堀 潔 さん

新堀 潔 さん  (大営53)
株式会社 村松フルート製作所勤務

フルート作りに欠かせないのは思考力

♯ フル-トとの出会いから、お聞かせください
♭ 遡れば中学生の時です。楽器屋さんでフル-トを見て、美しい!これやってみたい!と思ったんですね。演奏を聴いてではなく、ただ単純にフル-トという楽器のその姿に魅せられたんです。甲南大学に入学すると迷わず交響楽団に入りました。

♯ 甲南大学での思い出は
♭ 4年間勉強せずに交響楽団に明け暮れました。直情径行な性格で今思い返すと恥ずかしいことばかりです。 高校野球のインタビューで立派な答えをする若者を見ていると、あの頃の自分にあんな立派な返答ができたかどうか。
 
♯ ムラマツに就職されたのは、フル-トに関わるお仕事に就きたいと思われてでしょうか
♭ いえいえ、それがまったく違うんです。甲南を卒業すると、普通の企業に就職したんです。あの楽しい甲南生活から一変、社会の厳しさを知って戸惑いました。甘かった。世間知らずでした。このままでいいのか。自分とはいったい何者か?自分の実存とはいったい何なのか、自分に何ができるだろうか。悩み、自問しました。その時、学生時代に一度フル-トを修理に出しに所沢まで出向いたことを思い出したんです。あの工房の空気、熱心に緻密な作業をする職人さん達。できればあんなところで働きたい。そして思いきってムラマツに電話しました。今のようにインタ-ネットで情報を知ることはできませんでしたから、自分で状況を聞くしかありません。「今すぐでなければ、採用を考えます。」という返事が返ってきました。入社してみると案外適正があったみたいです。
 
♯ フル-ト作りのご苦労は
♭ 品質を工程ごとに織り込んでいきます。検査工程はありません。ですから、後工程がお客様です。場所によっては1000分の1の精度も必要です。もっと雑なところもありますが、いわゆる「すり合わせ」に繊細な神経が必要になります。フルートは三つに分かれていますが、演奏時に組み立てます。その時、硬くなく緩くなくスム-ズに組み立てられる。これ難しいんです。楽器は工芸品や高級時計の作り方に似ています。また、工芸品でありながら生産性も要求される。器用さは求められますが、大事なのは器用さよりも、考える力だと思うんです。でないと、新しい課題を要求された時に応用ができない。問題点を抽出し、解決するには演繹的思考力が必要です。仮説、検証の連続です。(東京大学 藤本隆宏先生参照 iTuneで無料DL可能)
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<製作風景>

♯ 著名な演奏家との出会いはありましたか

♭ フル-ト奏者は日本公演の時などに、ご本人が修理や注文しにムラマツまで足を運ばれます。ボストン交響楽団のジュリアス・ベ-カ-や黒人ジャズプレ-ヤ-のヒュ-バ-ト・ロ-ズ、カラヤンに引き止められたベルリンフィルを辞めたジェ-ムズ・ゴ-ルウェイ、ウィーンフィルのヴォルフガング・シュルツ。この人巨大な体です。超一流の奏者たちは、桁外れにすごい!草野球とメジャーくらいの差があります。食堂でのミニ演奏会は、素晴らしいひとときです。スイスの演奏家であるオ-レル・ニコルさんが社員旅行に参加された時、彼に温泉の湯船で私のへたくそなフランス語を直されました。 au radio ではなく à la radio だよ。ラジオは女性名詞だよと。ゴールウェイさんのカラオケも印象的でした。

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<世界的フルート奏者James Galwaysiさん>

♯ 甲南大生に伝えたいことは

♭ 若いうちにいろんなことに興味をもって欲しい。話せる語学をしっかり身に付けて欲しい。そうすれば世界は広がります!

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<ウィーンから来た研修生Markus Lorenzさんと>
 

聞き手・白須日尚子(大文54)

手漉き和紙職人 馬場 和比古 さん  (大営51)

夫婦で守る日本の伝統

馬場 和比古さんは明治初めから続く名塩和紙製造業の4代目。現在、金箔を打ち延ばすのに用いる金箔打原紙を専門に漉き、原紙は石川県金沢市の箔打職人のもとへ送られます。和紙で打たれた金箔は、日光東照宮や中尊寺金堂、西本願寺御影堂等の重要文化財の修復に使われています。
金箔は原紙と金を交互に1800枚重ね、皮で包んでハンマーで打つと熱が出て金が溶け金箔になりますが、泥(地元で採掘される粘土)を混入しているため紙が焼けて破れることはありません。名塩和紙が金箔製造に使われるのは、この耐久性にあるのです。打った後の紙は高級な脂取り紙となり金沢市で販売されています。
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紙漉きは10月から翌年の梅雨頃にかけて行われます。冬、底冷えのする漉き場で手先の冷える厳しい作業になりますが、紙質のしまったよい紙が出来るそうです。
紙の良し悪しが金箔の出来に大きく影響するため、厳しい検品を行い、製品化率が50%を切ることもあります。さらに近年、名塩周辺の道路建設や宅地開発の影響で材料の泥や雁皮が手に入りにくくなったり、水質や大気汚染などもあり、名塩和紙の品質に悪影響を与えているのも気にされていました。
紙漉きは泥の入れ加減や、「ねり」(ノリウツギの皮を発酵させて絞った粘液)を合わせられるようになるまで10~20年かかるなど、後継者の育成は簡単なものではなく、今、馬場さんは大変貴重な存在となっています。
「紙漉きは勘による仕事。厚みや泥の量、そしてねり加減を毎日漉き舟に向かって紙と対話しているのです。いつの時代の職人もそうだったと思いますが、この時代に出来る最高のものを、という職人の気概を持ち、伝統的な金箔を微力ですが支えていきたい」と馬場さん。

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玄関に「塩峡古来産名紙」と書かれた額がありました。壽岳文章先生の書です。先生は和紙の研究で、和田邦平先生とよく馬場さんの漉き場に訪ねてこられたそうです。昭和58年、名塩和紙は和田先生のご尽力で兵庫県伝統工芸品に指定されました。


馬場さんは、学生時代は映画研究部に所属。その頃、名塩和紙の将来性や一人前の職人になれるかなど随分悩み、また先代には「自分の好きな道を進め」と言われたそうですが、名塩の風土と先人達の情熱から生みだされた箔打紙に魅力を感じ、この道に。
趣味はコニー・フランシスなど60年代のアメリカンポップスと読書。読書分野はやはり伝統工芸関係に。伝統工芸はどこも後継者問題で悩んでいますとポツリ。
奥さんはクラブの後輩。現在は子育てを終え、雁皮の「皮むき」や「はきつけ」など下仕事でご主人を支えてくれるありがたい存在です。
名塩和紙、いつまでも伝統の和紙作りが続くことを願ってやみません。
(取材 IT推進部 石川晴雄)


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